アタリ・ハズレ Posted on 2014年1月19日2023年8月19日 by kaida HOME >コラム>篠崎 良勝 氏 介護コラム 篠崎 良勝 氏 聖隷クリストファー大学 准教授 私は介護分野の調査研究をしている関係上、福祉関係者と話をしたり、各地の施設を訪れたりする機会がある。私が肌で感じた介護現場の一側面を紹介したいと思います。ある老人ホームのデイサービスを利用している鈴木玲子さん(仮名=67歳)。彼女には認知症の症状がある。彼女はこの施設では厄介者らしい。彼女はトイレに行くと、必ずその後で自宅に帰宅したくなるようだ。案の定、彼女はトイレから出てくると帰宅するための身支度をし、玄関に向かって歩き出した。 それを静止しようと介護職員が「玲子さんのお部屋はこちらですよ」と言って反対方向に彼女の腕を引くと、「ねぇ!どうして帰してくれないの!」と声を荒げる。その後、その介護職員が記入した記録ノートには「14時30分頃、玲子さんから奇声あり」と書かれていた。なるほど、この施設では先ほどのような彼女の荒げた声は〝奇声〟と呼ぶられるらしい。翌週、別の施設に行くと、例の鈴木玲子さんがいるではないか。正直、驚いた。あまりにも上品かつ穏やかな表情で珈琲を飲んでいる。彼女は、どうやらここのデイサービスも利用しているようだ。彼女がトイレから出てきた。すると、やはり彼女は帰宅の準備を始め、玄関に向かい始めた。『また、〝奇声〟で周囲を困らせるぞ』と私が不安に思っていると、ここの介護職員は違う。彼女と一緒に玄関から出ていった。そこで、私も急いで二人の後を追った。そして、一緒に歩き始めた。すると、彼女は家族のことや料理の話など、時折笑顔も見せながら散歩をしているではないか。「そろそろ、中に入って温かい珈琲でも飲みませんか」と介護職員がいうと、「そうね、中に入りましょう」と彼女は自ら玄関を開けた。その後、介護職員の記録をのぞいてみると、「14時00分、玲子さんと楽しく散歩」とだけ書いてある。〝奇声〟という言葉はどこにもない。「介護職員が人に寄り添う姿にはアタリ・ハズレがある」ということを私は肌で感じた。 連載一覧 気高さ 2014年3月13日噂の真相 2014年2月21日アタリ・ハズレ 2014年1月19日 無料で体験する 資料を取り寄せる