自然との向き合い方(バイオフィリア)と、身体観 Posted on 2017年8月10日2023年8月19日 by 管理者 HOME >コラム>林 久仁則 氏 介護コラム 林 久仁則 氏 身体教育家・東京藝術大学非常勤講師 ~ 私の自然観、それを基にした運動や体を育むことへのこだわり~朝凪(あさなぎ)の様な早朝、肌に冷たさを感じるピンとした空気。鳥のさえずりが響き虫の音や風の音が幾重にも混ざる山の中。海の中や川、水中での包まれた浮遊感。静かで大きな自然の存在感の中に溶け込む時、オフィス街で観葉植物に触れるのとは異なる『自然の息吹』を強く体感する。人にはバイオフィリアという志向性があるという。独の社会心理学者エーリヒ・フロムが提唱し、米国の社会生物学者によって補強された。 (Bio:バイオ=生き物、生命)+(Philia:フィリア=好的傾向、愛)、つまり、人は植物や動物、自然を愛する傾向を生得的に本能に有するという概念である。実際に我々は自然と向き合うことで様々な恩恵を得られる。例えば森林浴で植物から発せられる化学物質「フィトンチッド」を浴びると人のストレスホルモンが低下し、土や落ち葉に触れ微生物と交わることは免疫系に作用し、動物との触れ合い、生命との交流は、心や精神面にポジティブな影響を与えると言われている(※1,2)。こうした生得的な志向性に納得する一方、私たちの身体そのものも、また自然の一部である。身体を自然という切り口で向き合う。この発想の原点は、武術研究者である甲野善紀先生との出会いに影響を受けている。甲野先生は「人間にとっての自然とは何か?」を根底に生き、世に武術的身体の使い方や考え方の可能性を広められている(詳細は書籍を参照されたい※3)。私は古武術を習う方々と身体操作の稽古を11年継続しているが、達人である先生方や諸先輩方の足元にも及ばない。しかし、曲がりなりにも、身体にとっての自然な動きを学んできた過程で気付くことがいくつかあり、何かしらの参考になれば幸いである。古武術的な動きでは、身体の動きと感覚に素直に従う。過剰な思考での制御や指示は不要となる。身体に任せた動きは、効率的で無駄のない、全身が動員される実感を伴う。そしてそれは身体の一部ではなく全体を働かせているため、主観的な疲れを感じにくい(詳細は諸師の書籍などを参照されたい※4)。この「感じると動く」の狭間で、思うように動かない身体を少しずつ自分の意思で動くようにさせていくプロセスが非常に魅力的だ。それは、今ここにある身体で何が出来るのか、という事への表現でもある。長年出来ないと思い込んでいた自身の殻を破いていくきっかけにもなる。今ある自分を受け入れ、可能性を感じ、僅かであっても前向きな変化に直面すると、こうした稽古に参加している方は大きな自信を掴む。その喜びはさながら山を登る道中で、素敵な景色を見つけ共有して喜び合うような、発見の共有性を含んでいる。勝ち負けではない、身体を介しての表現に他ならないからだろう。敢えて大げさに言うとそれは自然(である身体)の法則を一つ発見したかのような喜びに似ている。私はこの運動を続けながら、一緒に取組む参加者の前向きなエネルギーを共有させて頂くことを、一つのライフワークとして継続している。身体が動けば心が動き、その心の動きがまた良い流れを生み出していく。冒頭に述べたバイオフィリア・自然への回帰、これを自然の一部である身体に適用するということはつまり、自身に内在する自然性を大切にすることであり、育むことだと認識している。自然と向き合う時の居心地の良さを手掛かりに、自分自身の動きの心地よさと向き合う。また、自身を捉え直す際に、こうした自然観を出発点にして整えてみる。最後に、自然のことはよく説明が付かないことや、未解明なことがあると思う。身体のことでも同様、「ヒモを身体に巻く」ことで、身体の働きが色々と改善することが「ヒモトレ※5」として紹介されている。今は、山の途中で素晴らしい景色に遭遇し、それが何かはまだ良く分からないが、色々な角度、視点からこの驚きを共有している状態であると思う。様々な仮説が生じ、理由や理屈は完全に追い付いていない。だが、それでもいい。数多くの方が身体の変化を確かに感じている。そこに理屈を超えた大きな流れを大切にする一種の自然観を感じている。読者の皆様にも、身体とヒモという不思議な組み合わせの妙味を味わい、身体が有する自然性を再考して頂く契機にして頂ければ幸いである。※1 森林浴が生体に及ぼす生理学的効果の研究【 日本温泉気候物理医学会雑誌74巻3号2011年5月 】※2 島根大学医学部紀要 【 第36巻45-54頁 2013年12月 】※3 甲野善紀 著 表の体育 裏の体育 日本の近代化と古の伝承の間に生まれた身体観・鍛錬法【 PHP文庫2016年8月 】※4 甲野善紀 著 古武術に学ぶ身体操法 【 岩波現代文庫 2014年3月 】※5 小関勲 著 新装改訂版 ヒモ一本のカラダ革命 健康体を手に入れる! ヒモトレ【 日貿出版社2016年6月 】 連載一覧 多様性を超えて。超高齢者社会を見据えた取組み 2017年9月12日自然との向き合い方(バイオフィリア)と、身体観 2017年8月10日情報社会の現代における医食同源~貝原益軒は今、何と言うか? 2017年7月12日 無料で体験する 資料を取り寄せる